有料のメールマガジンを1つ購読している。
田中宇(たすく)氏のメルマガ。
無料版を読んできたが、独特の論理で面白く、応援の意味もこめ、今は購読している。
かなりの長文で、
段落パラグラフごとに、内容に関連する複数の英字紙記事へのリンクが張られているので、彼の推論を構成するひとつひとつの事象が、どの新聞のどの記事に基づいているか、分るスタイル。
有料版の最新号は「オサマ・ビンラディン殺害の意味」。
田中氏は「オサマ・ビンラディン殺害の意味」を、巨額の財政赤字に苦しむオバマが、1)アフガン撤退のための公式な口実として、2)軍事に偏重している米国の政治姿勢を、国内重視型に切り替えるきっかけとして、3)来年の選挙を見据えて、、、この時期に実行したと解いている。
また殺害相手が本物のビンラディンがどうかは問題ではなく、このタイミングで、「ビンラディンが死んだ」という新しい
状況現実をつくることが、重要であると。
あれだけ大騒ぎし、莫大な軍事費を投入して、オサマ・ビンラディンを探し回った挙句が、「彼が死んだ」と言う新しい状況がつくれれば、具体的な彼の生死は問題ではないと。
そもそも9・11へのビンラディンの関与自体が架空であり、彼の生存自体もイメージの可能性があった。
だから殺害の相手は、誰でもよかった?
その証拠として、丸腰の彼を逮捕せずに射殺し、しかも顔に向けて発砲し、その後速やかに海に投棄して、水葬にしてしまう。ビンラディン氏で
あることのなかった場合にそなえ、確証を残さぬよう、意図しているとしか思えないと。
彼の推論に、私はたいてい感心させられるが、今回もそうだった。
引用は全体の6分の1ほど。パラグラフ単位での引用で、間にいくつものパラグラフを省略している。なお新聞記事へのリンクは全て削除した。
5月2日、米国のオバマ大統領は、米軍部隊がアルカイダのオサマ・ビンラディンを殺害したと発表した。
このニュースを聞いたとき、私がまず思ったのは「これでオバマは、米政府がやらねばならない財政赤字削減の一環として、アフガニスタンからの米軍撤退を加速できる。来年の大統領選挙でオバマが再選できる可能性が、これで高まるかも」ということだった。
米政府の高官は、ビンラディンの死がアフガン戦略の「すべてを変えた」と言っている。
オバマは12年間で4000億ドルの軍事費削減(今の年間軍事費は7000億ドル)を議会に求めている。削減を実施した場合、従来のように米軍が一度に2つの戦争を遂行する体制をとり続けることができなくなるとゲーツ国防長官が警告している。
米軍は今、アフガニスタン、イラク、リビアという3つの戦争を遂行しているが、今後は2つ以上の戦争を同時遂行できなくなる。
イラクは今年末に撤退を完了する予定で、リビアに関して米軍は英仏軍の支援をしているだけという建前になっている。残るはアフガンだ。
▼ビンラディンが死んだという新状況こそ重要
ビンラディン殺害は、テロ戦争の終わりと米国の国家戦略の転換につながっていくだろう。国防総省では今年4月に「米国は世界戦略における優先順位の決定を間違っている。イスラム過激派に対して過剰反応してしまっているし、世界戦略が軍事面に偏りすぎている。米国は、自国の若者の教育に不熱心で、エネルギーなど経済態勢の強化も怠っており、国としての競争力を減退させている。軍事費を減らして社会や経済の国力増進に回すべきだ」とする、自己否定を含んだ国家戦略の草案「国家戦略談話」(National Strategic Narrative)がまとめられている。
ビンラディンの殺害は、ビンラディン自身がいなくなることよりも、ビンラディンが死んだという新状況が生まれることによって、米国がアフガン撤退と財政赤字の削減、軍事偏重の国家戦略からの離脱などが可能になるところに、大きな意味がある。
米軍部隊が殺したのが本物のビンラディンであろうがなかろうが、実は大した違いはない。米軍部隊が殺したのが人違いだったとして、それが世界的に暴露され、米政府の公式見解になると大変だが、現実的には、政府が人違い殺人を認めることはなく、米欧日のマスコミは、米政府が認めない限り、本物のビンラディンが死んだと報じ続け、米欧日の国民の大半はそれを信じるだろう。
今回の事件は、実際のビンラディンの生死でなく、米国とその同盟諸国が「ビンラディンは死んだ」という新たな「現実」を持つことに大きな意味がある。